kidrobot : Paul Budnitz
「アートの限定量産」という信念を引っ提げ、アメリカに新たなアーバン・トイ市場を切り拓いた「Kidrobot」(註1)。アーティストがデザインした500、300、100、もしくはそれ以下の個数による限定版トイ・シリーズを、ネットを皮切りに、サンフランシスコ、ニューヨークのアンテナショップで販売。昨年11月にはロサンジェルスにも店舗進出し、軌道に乗る。トイというサブカルチャーの申し子に、“廉価で求められるファイン・アート”としての付加価値をもたらし、アートとコマーシャルの結婚を慎重に守り続けるKidrobot社長、ポール・バドニッツさんに話を聞いた。
ARTas1編集部:まずはポールさんのバックグラウンドを教えて下さい。
Paul Budnitz:どこから始めようかなあ(笑)。アートスクールでは写真と彫刻、映画を学び、卒業後はフィルムやアニメーションの製作に携わった。脚本家として他のフィルムメーカーにスクリプトを提供したこともある。アート以前は、コンピューターのデータシステム・プログラミングが得意だったんだ。父(核物理学者)が大学で教えていた関係で、小さい頃からコンピューターに囲まれて育ち、学校から帰ればすぐにコンピューターで遊ぶって子供時代だったから(註2)。アートスクール(イエール大学)に入学した日に、もう「コンピューターはやめよう」と決心したんだけど。
編:それはまたなぜ?
PB:小さいモニターの前に座って過ごす事に飽きたから。それより真剣にアートに専念したかった。もの作りに夢中になりたかったんだ。でも、学校を出てショート・フィルムを撮ったはいいけど、当時はホーム・コンピューター用の映画編集ソフトがなかったから、結局自分でプログラムを書いたよ。
編:Tシャツのデザインをして、それをネット販売するビジネスも立ち上げましたよね(註2)?
PB:なんだかいろいろやってるんだよね(笑)。それは大学時代に立ち上げた会社(「M.O.B.」)で、後になり当時アメリカでは売られてなかったミニ・ディスクも売ったんだ。僕は、アートとリテイル・ビジネスを融合させる事に興味がある。自分自身がアーティストであるってことも大好きなんだけど、アートをつくるという事と同時に、どうやって他者に見せたらいいか、常に考えてる。財力のある人間が、興味を持つ(アート)作品にお金を出すという仕組み自体、僕はすごく面白いと思うんだ。正しく、“民主的”な行為だよね。
編:アーティストは作品を作ればいい、売る事は二の次、という人も少なくはないと思います。
PB:売る事に熱心じゃなくても、それはそれでいいと思う。でも僕は、創作する以上、限られた数を量産し、流通させる事がエキサイティングだという考えで、流通販売はアート/創作の一部だと思ってる。
編:トイ・カンパニーを興そうとしたきっかけは?
PB:小さい頃からずっとコミックや漫画やアニメが大好きだった。僕が育ったサンフランシスコには、大きなアジア人コミュニティーがあり、チャイナタウンや日本人街に行っては、ゴジラやウルトラマンのフィギアを買ってたんだよ。深夜には日本のテレビも放送されていて、「ジャイアント・ロボット」とかもよく見たな。当時からアートに深い興味があり、アニメやフィギアを既に「ファイン・アート」と見なしていた。ペインティングでも彫刻でも何でもよかったと思うけど、最初のアートフォームとして意識したのがトイだったわけ。
ウェブ・カンパニーを運営している時に、香港のアーティスト、マイケル・ラウ(註3)のアーバン・トイに出会って、これだと思った。漫画やグラフィティや音楽や映画やストリート・カルチャーの、美的感覚を具現化させたものがトイであり、コマーシャルとアートを融合させる完璧な手段だと認識したんだ。それから香港の国際トイ・トレード・ショウに行き、オンライン上で限定版トイとして売り始めた。様々な要素が重なり自然な成り行きでKidrobotが生まれたと思う。
編:Kidrobotにデザイン提供をするアーティストでもあるゲイリー・ベイスマンさん(インタビューはここから)は、トイを「手頃な価格で買える小さな彫刻作品」ととらえていると話してくれましたが、ポールさんはどうですか?
PB:僕も同感。ブロンズや鉄、マーブル素材とか、伝統素材を使った作品があるけれど、トイは素材が「プラスティック」の彫刻なんだ。現代のデザイナー・トイは、マス・アピールの強いポップ・アートだとも思う。多くのグラフィティ・アーティストがトイ制作に関与しているけれど、彼らはポップ・カルチャーにインスパイアされている。カートゥーンやアニメや広告からイメージを応用し、だから彼らはコピーライトの心配しなくていいんだけど(笑)、最終的にユニークで力強い、独特なキャラクターに発展させていると思う。
編:LA店のオープニングで、ゲイリーさんのサイン会がありました(その模様はここから)。その翌日、サイン入りの「Dunce」に$300の値がつけられeBayオークションにかけられていたそうです。“リミテッド・エディション(限定版)”に対する人々の熱狂を、どのように受け止めてますか?
PB:僕達は、再販については奨励してないよ。でも、eBayでの転売は、しょうがないのかもしれない。だって、本当に多くの人がこういうトイをコレクションしたいと思ってるからさ。蒐集する事はファンタスティックな事だし、考えてみれば、アートのコレクションに比べぐんと廉価で、より多くの人が参加できる行為だから大衆的とさえ言えるよね。ただ、一度買った商品をまた売り捌くという行為は、新たにトイを買おうとする人の気持ちを殺ぐ事だと思うから、僕自身は、いい事だとは思ってない。新しい商品は次々に出てくるし、古い商品はどんどん希少な限定版になっていく。eBayよりは、実際に店に足を運んでトイ=アートを体験して欲しいけど、別に危機感みたいなものは持ってないんだ。最後はうちのお店で買ってくれると信じているから。
Kidrobotでは、あらゆる人に、自分が本当に好きな物を選んで欲しいと願っている。ほとんどのお客さんは、自分だけのスペシャルなものをよく知っているし、何がその人にとって価値があるか、分かって買い物をしていると思う。お店でも「心から気に入った物を買って行ってほしい」と、アドバイスするようにしているしね。
編:オンラインとショップでは、客層は違いますか?
PB:基本的には同じ。オンラインは、アメリカ国外に住んでるお客さんが多くて、これまで日本、シンガポール、中国、ヨーロッパに配達したよ。店は3つとも人気エリアに構えてるけど、「誰でもWelcome!」という会社の姿勢をあらわしてるんだ。人気エリアだけにレント(家賃)が高いから、面積は小さいんだけどね(笑)。その代わり、無駄なスペースは設けず、いい感じの緊張感とエネルギーを保ててると思う。
編:ショップではアート・ショウも企画していますよね?
PB:2ヶ月ごとに、展示アーティストを変えてる(kidrobotホームページ・イベントページをチェック)。ショップ以外でもアートショウを開くよ。去年はNYソーホーのビジョネア・ギャラリーで「The
Dunny Show」を開いた。大規模なショウで、50人のアーティストが「Dunny」(註4)をカスタマイズ・デザインするって企画。ソーホーの街の1ブロック分をぐるりと取り囲むほどの大行列ができて、もう大大成功だったんだよ!
中には$25000で売れたDunnyもある。グラフィティやファッション関係の人が大勢参加してくれて、本当クールだった(笑)。今年もまた沢山のイベントを企画してるからね。
編:ビジョネア(註5)とは、よくコラボレートするんですか?
PB:ちょうど去年の12月に出た44号でコラボレートしたばかりなんだ。10個のトイを作ったんだよ(写真参照)。そのトイをデザインしたのが錚錚たるメンバーで、ルイ・ヴィトンのマーク・ジェイコブス、カール・ラガーフェルド、プラダ、ドルチェ&ガバーナとか、世界的なファッション・デザイナー達。実は、次の45号も担当する事になったんだよ。3月か4月頃に出ると思うけど、今度はコム・デ・ギャルソンとか今回一緒に組めなかったデザイナー達とクリエイトする。
編:ポールさん自身もデザイナーとしてクリエイトしたDunnyですが、どうやって誕生したんでしょう?
PB:映画を一緒に作った友達で、アーティストのトリスタン・イートンと作ったんだ。Dunnyを作る前に、自分達が好きなキャラクターをそれこそ片っ端から研究したんだよ。特に「ハロー・キティ」を。キティがここまでワンダフルで人気があって大成功している理由は何か?
と徹底的に調査して、遂に、それは大人も子供も、彼女の完璧なまでの美しき“無表情さ”に惹かれているからだ、って結論にお互い達したわけ(笑)
編:キティちゃんを所有した人が、それぞれに感情移入をできるから?
PB:その通り。で、僕たちはキティの無表情をもっと発展させ、Dunnyの「顔」を作らなかった。そうすれば、他のアーティスト達も自由にカスタマイズできるから。アメリカ的なアイデアで、可能な限りワイドなキャンバスを想定し、広い消費者層をイメージして制作したんだ。
編:Dunnyはキティちゃんを超えられるでしょうか?
PB:キティの年齢を考えても大先輩だし、手強い相手だよ(笑)。でも、僕はDunnyの将来は明るいと思ってる。ただね、うちのプロダクトは全て「限定版」だから、次の新バージョンができるまでに最低1ヶ月ないしは1ヵ月半という時間が必要で、ゆっくり生産してるんだ。
編:アーティストはどれくらい制作上の自由を持っていますか?
何か制限したりしてます?
PB:ぜんっぜん。何でもアリの何でもOK。自分にとってもこうじゃないとダメ(笑)。うちはホントにラッキーで、アーティストもKidrobotのやっている事に信頼を寄せてくれているし、工場にも恵まれてる。中国で製造しているけど、工場は百万個単位の大量生産じゃないと採算が取れないのにも関わらず、彼らは僕らのポリシーに賛同してくれ、限定版をトイを快く作ってくれる。本当に有り難いよ。
編:どうしてその工場を知ったんですか?
PB:中国には、一年に何度も足を運んでるんだ。Kidrobotのビジネスを始める前からよく行ってて、クチコミで知ったわけ。実は約1ヵ月後に(取材は1月中旬)また行く予定だけど、日本にもすごく行きたいんだよ。日本で店舗展開したいとずっと考えていて、もっと日本人アーティストと知り合いたいし、ビジョンを固めてきたい。アイデアは一杯ある。ただ、日本の場合アメリカとは全く違う独特な社会だから、慎重に事を進めたいんだ。
編:文化的バックグラウンドも違うし、別のマーケティング方法が必要になってくると?
PB:多分ね。でも、このままのフォーミュラでいけるという自信もある。自分達が自分らしく、そのままでいけばOK、というような。それにしても日本の市場は興味深いね。例えば現代のトイって、元々アメリカから日本へ輸入され、それが日本独自のスタイルになって今ではアメリカに逆輸入されている。これを、今度はうちが新たに手を加えて日本に送り、その反応を見るのが今からすごく愉しみなんだ。トイ文化の行ったり来たり。面白いよ。
編:アーティスト選びはどうやって?
PB:アーティストはみんな直接の友達か、その友達の友達か、その友達のまた紹介って構成で、これがうちのスタイルなんだ。通常、全く知らない人にはアプローチしない。ずっとこの方法を貫いていて、素晴らしいのは、心からのサポートが得られることと、自分達だけのクリエティブ・コミュニティを形成できること。その代わり、事業展開はスローになるけど、僕たちをサポートしてくれる環境をつくることが先決だと思ってる。一緒に働いてる友達は、みんな才能のあるアーティストばかりだよ。
編:自分達のクリエティブ・コミュニティを持つって、ほとんどのクリエーターにとって夢じゃないですかねえ。
PB:そうかもしれない。だから、どこでビジネスするにしても、もっと横のつながりを広げたいんだ。
編:全くの無名アーティストや新人アーティストとはあまり仕事しませんか?
PB:そんなことないよ。勿論、マイケル・ラウ(Michael
Lau)やフランク・コズィク(Frank Kozik)、ゲイリー・ベイスマン(Gary Baseman)やダリック(Dalek)とかビッグネームもいるけど、一緒に働いてるアーティストの多くは無名で、いま有名な人も、僕らとプロジェクトを始めた頃には無名だった人もいる。実際、多くの無名アーティストからアイデアとか送られてくるけど、「これはいい!」と思った人と仕事する事もあるんだよ。有名無名は関係なく、大切なのは、彼らの作品を「好きか否か」ってこと。僕らはトイや本を販売する事で、アーティストの活動を後押ししたい、プロモートしてあげたいんだ。彼らが成功すれば嬉しいし、ひいては僕らの成功に繋がるからね。アーティスト達とは、家族みたいな絆があるんだ。
編:信頼関係の上で成り立っているのが、Kidrobotの強みですね。
PB:そうだと素敵だな。コミュニケーションや人脈というのは、ある意味、大企業との競争から守ってくれるものだと思う。僕たちが持っているような独特のヒューマン・コネクションを、大企業は持てないと思うからさ。小さいカンパニーを運営するのはとても難しい事なんだよね。企業家としての一番の関心は会社の存続であり、会社がなければ何も作れない。どんな物をデザインして売るか、方向性やポリシーに関して厳しくならなければ、自分達が提供するプロダクツに対し人が興味を持ってくれなくなる。下らないガラクタを作る気は毛頭ないんだ。僕達はスペシャルなものをクリエイトして、人々に提供しているという自負がある。チャレンジングだと思うよ。
去年は、ディズニーやF.O.A.シュワルツとか、大手トイ・カンパニーから手を組まないかというアプローチが色々あったけど、全部断った。ビッグチャンスだったかもしれないけれど、こういうオファーを見放す事で、結果的には魂を売らずに済んだし、自分達の芸術性を高めていける。自分達のビジョンを妥協せずに、誠実にビジネスに取り組んでいけるんだ。
編:会社経営を熟慮しながら、アートも第一に考える。自身もアーティストであり、企業家との2足の草鞋という対極にある役割をこなすのは、大変じゃないですか?
PB:厄介ではあるよね。両方の神経回路でバランスをとるのは難しいと感じる事もあるけれど、でも、根本的にアーティスティックなビジョンが全てを統合し、維持してくれる。僕達が成功しているのは、こういう、強力なビジョンを持っているからだと思うんだ。例えば、大抵のビジネスマンは、儲け話を聞けば喜んでオファーを受けるよね? でも、もし僕達が、お金を儲けるという事だけにフォーカスして、突然、会社の方針を変えてしまうと、これまで培ったすべてのものが台無しになってしまう。アートをクリエイトするという、僕達にとっての第一義さえ見失いかねない。
こういうビジョンは、殆どのアーティストも必要としているものだと思うんだ。作品づくりだけに専念して売ることを考えず、地下に潜ってるようなアーティストが多いけど、それじゃ誰も作品を見てくれない。成功しているアーティスト達は、決して作品作りの上で妥協しないけれど、彼らの強いビジョンの中には「作品を売る事」も必ず含まれている。但し、安売りはしない。このギャラリーでは売るけど、ここでは売らないというように、自分の境界線やキャパシティを知ってるんだ。
編:Kidrobotのトイの真価は何でしょうか?
PB:僕が思うに、やたらに高価でなく、多くの人が無理なく買えるところ(Kidrobotの商品価格レンジはだいたい$4〜$400)。だからアーティストも制作しやすく、お客さんも商品にコネクトしやすい。これは作る側と買う側の連帯感を生んでいる。だけど、僕達のやってる事は物凄い冒険なんだと思う。100個限定のトイを作ったら、本当にそのトイを好きな100人のお客さんしか買わないわけで、大きなリスクを伴う事業だよ。でもこれは、“限られた量産”という、新しい資本主義のモデルに成り得るかもしれない。Kidrobotが提供するトイは、手頃な価格で、コピー不可能な、本当に本当にスペシャルなもの、そして蒐集価値のあるアートなんだ。自分の子供が出来たら、うちのトイで遊んで欲しい! それが夢(笑)。
編:ライセンス問題はどう処理してますか?
PB:うちの場合、アーティストはトイ製作の目的だけの為に、作品を提供してくれている。アーティストが作品をどう扱って欲しいか、僕らがそれをどう扱いたいかに拠るんだけど、ライセンスの権利はKidrobotが握ってるよ。うちがマーケティングも全てコントロールしてるから、デザインや商品が他で悪用/濫用される心配はないんだ。
編:去年の売り上げを聞いてもいいですか?
PB:ちょっとここで公式に発表はできないんだけど、通常数百万ドルの売り上げがあり、2004年は2003年の2倍の売り上げがあったということは報告できるよ。
編:5年、10年後には、どんな展開になっていると思いますか?
PB:もう、全く、わからない(笑)。いま、ゆっくりだけど、カンパニーは拡大していて、トイ以外のプロダクトにも力を入れてるところ。「NIKE」とコラボレートしたり(超レア限定版「Kidrobot
NIKE Running Shoes」)(註釈)、もし全てのプロセスでOKが出たら、ミニクーパーをデザインするかもしれない。Dunnyを描いたコンバーティブルのミニになる予定なんだけど、実現したら可愛いだろうなあ(笑)。服のラインもつくりたいし、興味のあるもの全てに関わっていきたいよ。
編:超多忙だと聞きましたが、休みが取れたら何します?
PB:寝る(笑)。休みが取れればほとんど寝てる(笑)。あとは、大好きな音楽を聴きに行きたい。でも全然時間がないんだよ。毎日、仕事。昔みたいに、時間があったらまた音楽を作りたいな。
Interviewed by Yumiko Loose
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kidrobot LA store のオープニングの様子を取材しました。
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( 4/1 「Dunny」シリーズの8インチ新バージョンが発売!)
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( 4/20 Gary MasemanのDumb Luck・NY版が発売。75個限定。)


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Courtesy of kidrobot.
2.18.05.Update