今回は、LAを拠点に世界へ向けて、アジアン・ポップカルチャーの多義的重要性を紹介し続ける雑誌「Giant Robot」の発行人兼編集長のエリック・ナカムラ氏とマーティン・ウォン氏に直撃。二人は、同誌で紹介したアーティストの作品などを販売する同名店舗のオーナーでもあり、LAローカルを中心にアート・コミュニティを盛り上げるギャラリーも運営。“アジア文化のご意見番”としてスタンフォードやハーヴァード大学に招かれレクチャーも行ったほど、縦横無尽に活躍中だ。夏には雑誌も創刊10周年を迎え、ますます波に乗る二人に、雑誌作りや店舗運営について、熱く語ってもらった。


ARTas1編集部(以下編):まずは「Giant Robot」創刊10周年おめでとう!
Eric NAKAMURA(以下E)Martin Wong(以下M):ありがとう!! 
E:雑誌の年数って、犬の年齢の考え方と似ていて、数えは10年でも実際は40年ぐらい続けてきたような感じなんだよね。実際、雑誌の発行を続けるって大変。いま、いろんな雑誌が創刊されてるけど、1年も続かずに廃刊するものも多いし。
編:そういう、競争の激しい業界の中で、10年も生き残ってこられた理由は?
E:コンテンツ、中身だと思う。トレンドを追ってきたわけでも、人の真似や何かのコピーをしてきたわけでもない。自分達がいいと思うものを選んできた結果だと思うよ。
M:あとは、熱心な読者のお陰。ほんとに「GR」を好きでいてくれるんだよね。

編:二人はどうやって知り合ったの?
M:パンク・ロックのショーで。1990年か91年ぐらいかな。当時はパンクのショーって言ったら、100人ぐらいのオーディエンスの中に、アジア系は2-3人ぐらいしかいなかったんだ。
E:その中の二人だったわけ。後はぜ〜んぶ白人。
M:お互い、パンクの同人誌とかに記事を書いたりしてた。エリックはバンドの写真も撮ってたんだよね。

編:雑誌「Giant Robot」を作ろうと思ったきっかけは?
E:ずうっと、多くの人々にアジアン・ポップカルチャーの重要性みたいなものを伝えたかったから。それまで誰も取り上げてこなかった主題だし、何より自分達が好きなトピックだからね。ポップカルチャーに関する記事を提供するのは、「自分達のミッションだ」と感じてるところがある。
M:最初から、かなり真剣に取り組み始めたんだよね。全体のコンセプトや文章の出来、デザイン、広告やディストリビューションの問題も含めて、いかに良い内容を届けられるか、本格的に練り上げた。ポップカルチャーから拡がって、歴史やファインアート、それに僅かだけど政治に関するものも内容に含んでいる。ここが、他の雑誌と大きく違う点だと思う。
E:雑誌の表紙に「Asian Pop Culture and Beyond」ってあるように、この「beyond(〜の彼方に、〜の向こう側に、〜を越えて、という意味)」ってとこが重要なんだ。人も文化も、時代も移り変わり、物事は常に変化していく。僕らもそれらと共に変わっていく。雑誌の基本コンセプトは不変だけど、自由に流れに乗りながら、自分達がいいと思うものは何でも紹介するという柔軟なスタンスを保っている。だから他に引けを取らない、中身の濃いものを提供できてるって、自負してるよ。

編:「Giant Robot」という名前の由来は?
E&M:日本のテレビ「ジャイアント・ロボ」(註釈)にインスパイアされたんだ。(註:横山光輝原作のSFロボット漫画をテレビシリーズ化した特撮もの。)
M:番組自体、クールだったよね!アメリカでも放送されてて、英語の吹き替えで見てた。音楽もよかったな
E:マーチソング調でヒロイックで。「ジャイアント・ロボ」って響きもいい。
M:「ビッグロボ」じゃ言い表せない、時代の空気をうまく表現できてるっていうか。
編:ある意味、二人はいま、“カルチャー”を搭載した自分達の“ジャイアントロボ”を操縦しているように思えるんだけど? つまり、ポップ・カルチャーを操縦する使命を追っているというか…。
E:そうかもしれない。それが自分達のミッションだと思ってる部分もある。「Giant Robot」って単なる名前じゃない、雑誌作りに対する自分達の美学がこめられてるんだ。深〜い意味があるんだよ。普段はあんまり人に言わないけどね。

編:GRの本当のミッションは、もしかして地球を救うこと?
E:うーん。何人かは救ってるね、確実に(笑)。下らない雑誌や退屈な世界から。だって世の中、雑誌は五万とあるけれど、買って読む価値のあるものってほとんどない。
M:もうホントにひどい!(笑)
E:買いたいって思うのは「National Geographic」ぐらいかな。あの雑誌って、作り手も読者も雑誌作りに参加しているようなところがあって、すごくいい循環が生まれてるような気がするんだ。尚且つ、お互いが社会の一部としてゲームに参加しているというか、世界の動きの波に乗っているところがある。「GR」もそうであってほしいと願うよ。みんながゲームに参加する、それで社会の一員としての意識を持つという。

編:読者層は?
E:半分はアジア系、残り半分はノン・アジア系で何でもアリ。アジアン・ポップカルチャーを通じて、全く違うバックグラウンドを持つ様々な人種の人々が、共感し、コミュニケーションをとってる。人種と文化のクロス−バーが読者の中で実現してるんだ。内容が良ければ色々な人が興味を持ってくれるって証拠。これってすごいクールなことだよ!! 例えば、NYに住んでるアフリカ系のコと、LAに住んでるアジア系のコが、「GR」で知ったことについて共鳴し合い、リンクする。考えただけでも、わくわくする。雑誌作りの醍醐味はここにある。こういうコミュニティ感覚をもっと生み出せたらな。まだまだ「GR」がやってることは、でーっかい世界の中でほんの一握り。まだまだ駆け出し。部数(48000部)も少ない(笑)! 「Time Magazine」や「Rolling Stone」誌は100万部はあるよ。頑張んないと。
M:でもさあ、その48000の読者って、最初っから最後のページまで、ほんと〜に細かいところまで読みこんでくれてるんだよね。広告まで入念にチェックして、「『GR』のスタイルにそぐわない記事(広告)載せちゃダメだ! 魂売るな!」っていう意見を熱烈なファンからもらったこともある(笑)。まるで自分が発行人かのように、「GR」を大切に思ってくれてるんだよね。中には同じ号を2部買って、一つは自分用、一つは友達へのプレゼント用にしてる読者もいる。それにさ、僕たちは万人向けの雑誌を作ってるわけじゃない。自分達が実際に買って読みたいと思う雑誌の発行を続けてきたんだ。そこが、「GR」の読者に一番アピールしてる点だと思う。読者もメインストリームで取り上げられていることに飽き飽きしていて、何か新しいものを求めてたところへ、「GR」にめぐり合ったって感じなんだ。
E:うん。全ての人に訴えたいわけじゃない。でも自分達の声が届く人には、思いっ切り呼びかけたい。もし図書館みたいに「GR」全号をコレクションしてくれる読者が一人でもいたら、エキサイティングだな。そうしたら、「GR」はもっと長生きできる。100年ぐらい(笑)。
M:それ、絶対見届けたい。コンピューターに体つなげて、冷凍保存で生き長らえなきゃ(笑)。

編:店舗「GR1」をオープンしたのは、いつ?
E:2001年。その前(98年頃)にウェブサイトを開設して商品を売り始めてはいたんだ。ずっと前から雑誌のメールオーダーで販売してたから、その延長なんだよね。最初は雑誌のバックナンバーとか、「GR」オリジナルTシャツを売ってた。
M:雑誌は毎日持ち歩けないけど、Tシャツは毎日着られるからって読者からの要望で、「GR」Tシャツ作ってたんだよ。当時はどうやって作るかなんてわかんなかったから、見よう見真似でアイロン使ってた。コオロギTシャツとかも作った。出来がいいやつは売らないで自分達のものにしてたけど。
編:それからだんだん、おもちゃやアーティスト・グッズも売るように?
E:いろいろ雑誌で紹介するうちに、「どこで買えるのか」っていう、読者からの問い合わせや反響がすごくなってきて、こりゃ自分たちでも売れるな、と。それで、自分達が気に入ったモノを買う時に同じ品物を10個買って、それを売るという、今みたいなシステムになってきたんだ。取材したアーティストの作品が欲しい時も、交渉して買ったりね。
M:モノによっては探すのにすごく苦労するんだ。最終的に、作ってるアーティストを探し出し直談判して買ってきたり、じっくり時間をかけるよ。
E:日本にも取材を兼ねて買出しに行くよ。寄るのはほとんど東京。渋谷とか中目黒、青山。でも池袋には近寄らないようにしてる。カオスだよ、あそこは(笑)。デザインの事で言うと、日本のものは本当にクールだね。
M:「GR」のお客さんって、僕らがどんなモノを選んでいるか、どんなモノが好きなのかっていうのを見たい、確認したいってとこがあると思う。他の人には見つけ出せないものをずっと提供してきたから、お客さんも「GR」に行けば何か面白いものが見つかるって信じてくれてるんだ。
E:お客さんの嗜好にあうモノ選びをしてるわけじゃなく、自分達の好きなものにこだわってるとこがウケてるのは確かだな。僕たちが好きなのは、ハートがあっていいモノ。好きじゃないのはハートのないもの。簡単だよ。例えば乱暴に言うと、「どーもくん=焦げち茶色のヘンなヤツ、好き。だってヘン。万人受けじゃないところにソウルがある」。あと、ほとんどのJ-POPは嫌い。超コマーシャルだから。音楽好きな人間がバンド始めたってより、機械的に“作られた”感じでハートがないよ。

編:ギャラリーを始めた理由は?
E:ギャラリーでアート・エキジビションをやるのも、店を持つのも、雑誌で紹介している様々なものを実際に見て、触って、体験してもらうってアイデアなんだ。例えば、雑誌で見ていいなと思ったイラストが、ギャラリーに来ると実際に飾ってあって、それを作ったアーティストにも会えるって、リアルな体験だし、感動的だよね。「GR」っていう大きな一つの流れの中で文化の交換を体感してもらう。新しいものが生まれる現場に居合わせて、時代の変遷に敏感になる。こういう構想なんだよ。オープニング・パーティにアーティストを呼んで、お客さんも商品を買うだけじゃなくパーティに参加してもらって、そこで会話が生まれ、コミュニケーションが成立する。時間をかけて“ハプニング”が起こっている場所まで来て、人と出会い、話をして、思考する。混ざり合う。お金儲けしようと思ったらギャラリーなんかオープンしないよ。でも僕たちは、こういうクロス・カルチャーな体験を共有する空間を生み出すことに意義を感じてた。ギャラリーだから作品は売るけど、売れなかったとしてもそれはそれでいいんだよ。みんなに来て見て感じてもらう方が大事。これは僕らのミッションだから。そうしていつか、1000年以上続いて来たアート・ヒストリーの1頁を構成してみたいと思ってる。
M:「GR」でアートを見たり、自分のテイストや美的感覚を世間の価値観と比べてみたり、そういうのはすべて積極的な行為だよ。「GR」のショーや雑誌を見た人が、「自分も何か作品を作りたい」って思う、インスパイアされることが少なくないんだ。で、彼らは作ったモノを僕たちに見せてくれて、それを僕らが買ってまた新しい循環が生まれる。すごくクリエイティブだと思わない?
E:次はレストランを開店するんだけど、それも人々に「文化体験」をシェアしてもらいたいって気持ちからなんだよね。「食」って人生に必要不可欠な上に、アジアン・カルチャーを手っ取り早く体験する一番の“方法”でもあるから。
M:目と脳味噌にいいものを提供したら、次は胃だ!みたいな(笑)
E:そうそう!(笑)オーガニック食材を使って、日本で言う「スローフード」を提供する。 徹底的にアジアン・カルチャーを味わってもらうつもり。ちなみに、日本人アーティストの山口藍がレストランの内装に協力してくれたんだよ。
M:良質なものを良質な空間で、リーズナブルな価格で堪能してもらいたい、それが「GR」スタイル。お金なんてぜんっぜん儲からない(笑)。
E:ホント(笑)。でも、「GR」を愛してくれる人、考えを共有する人へ、最大限のチャンスを提供したい、一緒に成長していこうっていうのが目標。ギャラリーもレストランもショップも、そこに行けば家に帰るのと同じぐらい安心できる、居心地のいい空間にしたい。その空間に入れば、外とは全く違う体験が出来て、新しい発見があり、ユニークな感覚を養えて、かつ癒される。そういうのが理想だな。これで動物園オープンできれば完璧なんだけど(笑)。
編:ある時代を共有しながら未来へ発展していこうっていう、ハッピーなコンセプトだね。動物園までできたら、次に目指すはもう世界平和でしょう(笑)? それこそ「ジャイアントロボ」みたいにヒロイックだよ!
EM:いいね、それ!

編:アジアン・ポップカルチャーがここまでアメリカで“市民権”のようなものを得てきたのは、「GR」の功績も大きいと思うんだけど、ほかにどんな要素があると思う?
M:僕らは10年間ずっと同じ事、アジアン・ポップカルチャーの紹介っていうミッションを続けてきたけど、それが少なからずメインストリームに影響してきたのはあると思う。でも、モノが良くなかったら、ここまで拡がらないよ。例えば、三池崇の映画「牛頭−GOZU-」とか「猟奇的な彼女」とか、本当にいいアジア映画が沢山出てきた。ハリウッドでも色々リメイクされたり、良質なものが世界的に認められ出した。無理矢理なトレンドってわけじゃないと思う。大手ジーンズメーカーも中国のアニメ使ったり、アジアのカルチャー・シーンが元気。アジアのものだからっていう色眼鏡じゃなくて、いいものだから見るって認識になってきてる。
E:最初に外見でオリエンタルって事を通過したら、次は本質だもん。アジア文化のリアルな面、ソウルを感じて興味を持つようになったんじゃないかな。要はクオリティ。そしてハートがあるかないか。人種やナショナリティは関係なくなってきてるよ。これって「GR」が目指してるものでもある。
編:日本のポップカルチャーやプロダクトについてはどう思う?
E:逆に日本のモノを語る時、「外見」は外せないよね。「かわいい」って事はキーワードだしスタイル、日本の商品についての一般概念になってると思う。「キティちゃん」がいい例だよね。「キティちゃん」って今じゃ日本よりアメリカでの方が人気あるよ。アメリカの認識範囲での日本の美学やデザイン力が、アメリカで評価されてると思うんだ。ポップ・カルチャーにも、この美学が通念としてあると思う。
M:テクノロジーと伝統、それに「かわいい」が加わって、それら全てがクールに調和してると思う。未来と過去の融合が絶妙の調和を奏でてるっていうか。本来、こういうものが一緒になったら無様になるのに、日本のものってすっきりクールにまとまるんだよね。そこがすごいよ。

編:今後の「GR」の計画を教えて。どうやって世界を支配していこうと思う?
EM:支配なんかしたくないよ!世界を挑発・誘惑はしてみたいけど(笑)。
E:毎日いい雑誌を作っていくことかな。怠けないで、毎日クリエイティブに過ごす。何かの後釜を狙うんじゃなくて、自分達にしか出来ないことを自分達なりの方法でやっていく。
M:常に新しく面白いアイデアで挑戦していく。仕事してるって感覚じゃないんだ。これはミッションであり、僕らの特権。やってて楽しくてしょうがないんだよね。
E:いいもの作って、いいエナジーを振りまいて。
M:リアルなものを追求していく。フェイクはいらない。このまま走り続ける(笑)。
E:みんな僕らを信じてくれてるしね。
M:僕らもみんなを信じてるしね。

Interviewed by Yumiko Loose

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Photo: Courtesy of Giant Robot.


Giant Robot 最新号Issue35 ($4.95)。
NYのアーティスト、Kawsの作品を表紙に。


エリック・ナカムラ氏(左)&マーティン・ウォン氏。


「Giant Robot」記念すべき第1号表紙(1994年)。


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