AA1:現代のアートは、乱暴に言ってしまえば、その人間(アーティスト)がどのように現代社会を、自分がいま生きている世界を見ているか、ってことの表現だと思うんですね。「コスモポリタン」として、ボーダーを常にまたいで縦横無尽に動き続けるヴェスナさんは、現代のアートをどんなふうに見ているのか、教えてもらえませんか? また、デザインはこのアートとは異なるものでしょうか?
VP:アートは、どんな様式のアートであろうと、あらゆる人にとって生活の一部であるべきだと思うし、そう教えられてきました。ビジュアル・アートである必要もないし、ポエトリーでも文学でも音楽でも、カントリー・ミュージックでもいい。これらもアートですよ。誰かがものづくりをして、誰かがそれにインスパイアされる。自分自身をいろんなものごとに対してオープンにしておくことを恐れない限り、アートは人生を豊かにするし、必ず誰かのハートにダイレクトに伝わる。これが、私のアートに対する見解です。デザインは、もっとコマーシャルなものだと思います。技術的に優れたもの、興味深く、社会に対して訴求性のあるものをつくるために、才能が必要です。短時間で忘れられてしまう、数日で消えてしまうジャンクもたくさんありますよ。それをつくった人はそれなりに、できる中での最高のものをうみだしているわけなんでしょうけど。ただ、グラフィック・デザインの場合、その社会的な影響は大きく、つくり手も取り上げる問題に関わりながら、筋道を立て、時間を費やしてつくっていくことが大切。力のあるプロフェッショナルとして仕事する事が一番求められますね。
でも、社会には、何かしらのメッセージを伝える為に、無料でアートをつくる人々(アーティスト)もいる。例えば、LAのグラフィック・デザイナー、ロビー・コナールは、政治的なポスターを製作し、それをゲリラ的に街のいたるところに貼ってメッセージを発信し続けている事で有名です。彼のポスターを好きな人も嫌いな人もいるけれど、明らかにメッセージの伝達という点では成功している、重要なアーティストですよね。いろいろな人がこうしてアクションを起こしているのは、素晴らしい事だと思います。
AA1:現在のLAのアート/デザイン・シーンをどう見ていますか?
VP:LA出身のデザイナーなら、過去と現在のシーンを明確に比較できると思うんですけど、少なくとも私の考えでは、過去10年でもっと開放的になったというか、国際的な影響のもとに大きくシフトしたと思うんですよ。一つにインターネットの影響が挙げられる。世界中のあらゆるカルチャーが露出され、交わり合い、私たち自身もっともっとお互いに認め合うというか、どんどん広く交流しあう世の中になっています。異文化の影響の下、双方向でコミュニケーションしあっていますよね。日本のカルチャーも、LAに輸入され広く受け入れられています。あとは、ロシアの構成主義。アートスクールでは教えられていても、このアメリカ西海岸では一般にあまり知られていなかったんですよ。それが最近、美術館で企画展が開催されたり、一気に開花した感がある。60〜70年代のキューバのアートも注目され始め、人々が学ぶようになっているのも面白い現象です。デザイン・シーンはとにかく国際的な影響が多々見られます。
アート・シーンについて言えば、東欧の影響が大きいんじゃないかしら。ベルリンの壁崩壊以後、LAには多くの東欧からの移民があり、アーティストもたくさん移住してきました。ですから、色の使い方や選択などカラーパレットには、彼らからの影響が多分に見られるように思うんです。アメリカのもともとの土壌にはない色使いですよね。
西海岸と東海岸のアートの違いにも注目しています。LAでつくられるアートには、もっと自由で実験精神豊かな感じがある。サンフランシスコは、どちらかというと構造的でシンプルな、東海岸寄りの傾向が見られます。LAにはSci
ArcやArt Center、Cal Arts、Otis College、UCLAといった、アートやデザインを学べるレベルの高い素晴らしい学校がある。これらの学校が、世界中から人を集め、アーティストの卵を呼び、LAを更に面白い場所にしていると思います。
AA1:LAには、NYとの明らかな違いがあるように思います。また、New
York VS (対)Los Angelesというような対立の図式があるような感じも…。
VP:それはありますよね(笑)。面白いのは、NYとLAの間にはいつも「ライバル意識」というか競争心があるみたいな、都市伝説的なものがまことしやかにささやかれている(笑)。「LAはバカみたいなこと(アート)をしている」「NYはクールだ、もっとホンモノのアートがある」とかね(笑)。でも、そんなこと言うのは決まって外部の人間じゃないですか(笑)。アーティスト自身はコラボレーションするのが大好きだし、コラボレーションの重要性や楽しさをわかってますから。クリエイティブ作業において情報や技術を提供し合い、助け合うのがアーティストです。NYのアーティストはLAでショウを開き、その逆も然り。アート・ワールド自体はもっとコラボレーションに対してオープンで、批評しあうとか、東西対立の意識はないように思います。どこから来ようが、地理的なバック・グラウンドはさほど重要でなく、インテレクシャルな人がいればコラボレートして関係を築き上げるという、素晴らしい状況が生まれているんじゃないかしら。
AA1:ゲイリー・ベイスマン氏は、「LAはいま、アートのルネッサンス期に入ってる」と語っていました。
VP:正に。例えばNYに行っても、各ギャラリーや美術館で紹介されているのはLAのアーティストだったりします。これが、現在のLAアートシーンを雄弁に物語っていると思うんですよね。様々なキュレイターがショウの開催のためにアーティストを選ぶんでしょうけど、もう一地方のみで発表するという狭いコミュニティー性がなくなってきていると思います。都市中央、アートの中央のみが強いのではなく、もっと地方のアーティストを世界に紹介するということ、LAのアーティストもどんどんワールドワイドに出ているのが特徴的だと思います。これって、アーティストにとってはとっても心強いことだと思いますよ。南カリフォルニアのアートだとか、いちいち触れることもないし、今後私たちはより地域的な差別化を意識しなくなるんじゃないでしょうか。
AA1:今後の予定を教えて下さい。
VP:もう、いっぱいあるんですよ(笑)! 興味あることが多過ぎて困ってます。本当に、心底、世界中の人と、いろんなバックグラウンドを持つ人と働きたいんですね。ただ同じ場所に座って同じことしてるのは、性に合わない。世界中の人とコネクトしたい。
現在、来年NYで開催予定の「世界の日常デザイン(仮)」の準備中なんですけど、このショウでは、アメリカのデザインと世界中のデザインの掛け橋になるのが目標なんです。旧ユーゴスラビア、つまり私の祖国のアーティストたちと一緒に働く企画も動かしてますよ。例えば去年は、スロベニアのルブラナ大学デザイン学科の教授を招き、AIGAで講演会を開きました。今年はもう二人、旧ユーゴからデザインとアートのプロフェッショナルをアメリカに招きたいんです。他の国からもデザイナーを招待して、社会メッセージを発せられるようなスペシャル・イベントを開きたいですね。現在は、UCLA
Extension夏のプログラムでポスター・デザインの講座を受け持っています。社会認識をテーマに取り入れた作品を作ろうというクラスですが、とっても成功してるんです。「教育」にやりがいを感じていますし、興味がありますね。
AA1:生徒には、どういうアドバイスをしていますか?
VP:人にアドバイスするのと同時に、自分自身にも言い聞かせていることなんですけど、常に目を見開き、意識して自分の周りの出来事に目を向ける、敏感にアンテナを張り巡らせる、ということですね。そして、できる限り旅をすること。旅は人生を豊かにするし、様々な文化や人との出会いを可能にします。これは、必ず仕事に反映されますから。
取材・構成 Yumiko Loose
(註釈)のところをクリックすると解説が出ます。
|